せいぎのみかた
第8話「学芸会!(予告編)」

※前回のあらすじ※
季節も秋になり、すごしやすくなってきた昨今。
学校行事も多くなってくる時期。
敵の登場にも負けず、無事に運動会を終えた一世達。
はたして、これからどうなることやら。


秋の陽光に照らされる小学校、その5年2組の教室…。

さっき作ったばかりの台本を流し読みしながら一世は呟いた。
「しっかし、ついこの間に運動会が終わったかと思いきや、今度は学芸会だもんなー。時が経つのは早えぜ。」

そこに台本を作り終わった北斗がやって来た。
「そうだな。今度はずっと体育の時間が学芸会の練習だもんなー。」
そして自分の席に着くと、台本を開いて一通り眺め、
「しかし、毎年5、6年生は衣装とか凄く凝るよなぁ。まぁ、小学校生活で最後の学芸会だからなんだろうけど。」
と、呟いて台本を机の上に置いた。

「へぇ〜、うちの学年は今年、こんなんやるのかー。 」
そう言ったのは未来だった。
どうやら、もう台本を読み終わったらしく、
「しっかし、これラブストーリーじゃん! こんなの小学生にやらせるか〜?」
と、呆れた表情をした。

そこに、一世達の元へ昴がやってきて二人に尋ねる。
「ねえねえ、皆は何やるか決めたー?」

一世は、投げやりな様子で台本を手で弄くりまわしながら答えた。
「あー…。俺はどうしよっかなあー。芝居苦手だし、ダンサーあたりでもにすっかな。」

「うーん…。俺もどうしようかなあ…。って言うか、まだそんなすぐには決められないな。」
北斗も再び台本を手に取ってパラパラと眺めた。

二人の返事を聞いた昴は、
「あっ、そうか…、そうだよね。」
と、呟くと、未来のそばへ行き、
「ねぇねぇ、未来ちゃんは、もう何がやりたいか決まった?」
と、訊いてきた。

未来は昴の方を見つめると、まるで恋する乙女の様なキラキラとした表情をして言った。
「私はやっぱり裏方よー! 一つの物を皆で協力して作る、あの一体感! そして、本番へと向けて、準備するあのワクワク感!! 良いわよねぇー。」 

「未来ちゃんは相変わらず、舞台裏とか、準備する時とかが好きなんだね。」
昴は笑った。

それを聞いた未来は、
「当ったり前じゃない! 出演者を影で支えて、本番中も舞台裏でその様子を静かに見守るの! あー、あの緊張感! たまらない!!」
そう言うと、うっとりした表情を浮かべた。

未来と昴の会話を聞いていた北斗が呟いた。
「しかし、勿体無いなあ。未来は記憶力も良いし、演技力もあると思うんだけどな。まぁ、本人の才能とやりたい事は全く別物だけど…。」

「ええっ?!」
思わぬ言葉を聞いて未来は吃驚して変な声をあげた。
そして、少し照れてながら、
「私に才能がある? 冗談! だって私はすんごいアガリ性で、教科書の朗読でも声が震えちゃう位なのよ?!
まぁ…、記憶力の方は確かに良い方だとは自分でも思うけど…。」
と、言って手をモジモジさせた後、北斗を見つめて叫んだ。
「そ、それに大体、私に演技力があるって、いつそんなの解ったのよ!」

北斗は、あっけらかんとした様子で答えた。
「いつって…、3年の時の学芸会に決まってるだろ。」

未来は記憶を辿り、北斗に尋ねた。
「3年の時って…、あの主人公の友人Bでそこそこ出番と台詞があったアレ?」

そして北斗は、
「当たり前だろ、他になにがあるってんだよ。」
と、答えた。

その時、
「よくそんなん覚えてるなー。俺なんか、もううっすらとしか覚えてないぜ。」
と、一世も会話に入って来た。

北斗は腕を組んで、しみじみとした表情を浮かべ、
「まぁ、俺がこっちに来て初めての行事だったし、そう言う意味では、思い出深かったのかもな。」
そう言って天井を仰いだ後、
「それに…。」
と、未来の方を意味有り気にチラリと見た。

だが、当の未来は全くそれに気づかず、
「演技…、演技力ねぇ〜…。」
と、一人呟いていた。

その時、
「おら〜! お前達! 全員台本作ったかー!」
教室に先生の声が響いた。

その声を聞き、談笑していた生徒達は慌ててそれぞれ自分の席に着いた。
そして先生はチョークを手に取ると、黒板にこのクラスに割り振られた役や裏方の一覧を書き始めた。

それが書き終わると、先生は皆の方を向き、
「今書いたのがうちのクラスが担当する、役と裏方です。
次の時間に役目を決めるから、それまで各自台本を読んで、何をやりたいか決めておく事。
言っておくけど、自由時間じゃないから大声で騒いだり、廊下には出ない事!! まあ友達との相談くらいは許す、それじゃあ始め!」
そう言うと自分の席に着き、台本を静かに見始めた。

暫くの間、教室内は水をうった様に静まり返っていたが、恐る恐る一人、二人と席を移動し、各々友達を何をやるか話しをし始めた。

台本を机に置いて、一世は小声で叫んだ。
「やっぱ決めた! 俺ダンサーやろう!!」
そして北斗の元へ行くと、顔を覗き込んで、
「北斗、お前は何にするか決めたか?」
と、訊いた。

北斗は一世の方を見ると、
「あぁ…。」
と、呟いて、
「俺は何の役でも良いや。あんまりそういう拘り無いんだよな俺。」
と、台本を机に置くと、両手を組んで大きく伸びをした。

それを聞いた一世は、
「は〜ん、そう言うもんですか〜。」
と、ちょっと呆れたかの様に言った。

そんな一世の反応を見て、北斗は少し慌てて力説した。
「別にやる気が無いって訳じゃねえよ。俺はただ、やるからには全力の本気でやるって事。
それには裏方も出演する方も関係無いって言いたいんだよ。」

「ほぉー。成る程…。」
一世は感心して、そう呟いた。

そして北斗は続けた。
「だってそうだろ? いい加減にやったら、わざわざ大切な時間を割いて見に来ている人達に失礼だろ? それに…。」
「それに?」
「大体『学芸会』という言葉が『芝居がヘタクソ』って意味で使われてるってのも失礼だとは思わないか?」

「はあ?」
いきなり同意を求められ、一世は変な声をあげた。

しかし、そんな一世を置いて、北斗はなおも続けた。
「小学生レベルだとかってバカにしやがって…。俺達だって本気で真面目にやってるってのによ。
そりゃあ確かに、俺等小学生はヘタクソかも知れないけどさ、もうちょっと言い方ってもんがあるだろ? なぁ?」

そんな北斗の滅多に無いエキサイトぶりに、一世はただ、
「あ…あぁ…。」
と、適当に相槌を打ち、そして、
『何か、北斗の中で変なスイッチが入っちまったなぁ…。』
と、頭を掻いた。

不機嫌になって、ぶつぶつと独り言を呟く北斗に、一世は何とか話を逸らそうと、
「やっぱさ、お前のそう言う所の拘りってさ、親父さん譲りなのかな?」
と、小声で耳打ちした。

「!!!!!!!!!」

北斗は吃驚して、急に冷静さを取り戻し、一世を見つめた。


一方、机に突っ伏して気持ちよく居眠りしてる未来に、誰かが話しかけてきた。
「ねぇ…、ねぇ…、ねぇってば!!」

「ん〜…。一体何よ〜…。」
眠たそうな顔をして、未来は顔をあげ、そして目の前の人物を見て一言、
「げ。」
と、呟いた。

そこに居たのは麻衣子だった。

「もう! 『一体何よ〜。』じゃないわよ…。それから、ヨダレ出てる。」

「!!」
未来は慌てて口元をぬぐい、姿勢を直して、
「えへへへへへ…。」
と笑った。

麻衣子は溜め息をついて言った。
「未来ちゃんはもうやりたいの決まったの?」

「そんなの聞くまでも無いっての解ってる癖にー。」
未来は笑って答えた。

それに麻衣子も笑って言った。
「やっぱり裏方やりたいんだ。」

未来は少し真面目な顔をして言った。
「まあね、演技する事は嫌いじゃないけどさ、やっぱどうしてもね…。
まぁ、私が工作好きってのもあるけれど、やっぱり裏方側で本番迎える方が好きなのよ。」

しかし麻衣子が言う。
「でも、小学校生活最後の学芸会なのに、裏方で良いの?」

それに対して未来は、
「うん。どっちにしろ、誰かがやらなきゃいけない訳だし、それに私は好きでやりたいんだもん。」
と、静かに微笑んだ。

それを聞いて麻衣子は、
「そうだよね、好きなんだもんね。最後だからこそ、好きなのがやりたいよね。」
と言った。


そして時間は経ち…。
『キーン…、コーン…、カーン…、コーン…。』と、校舎の中でチャイムの音が響いた。

それを聞いて、先生は席から立ち上がると黒板の前に立ち、叫んだ。
「よし、じゃあお前等〜席に着け〜。これから役を決めるぞ!」

それを聞いて生徒達はそれぞれ自分の席へと着く。

多少、役の取り合いはあったものの、主役や脇役、ナレーター等、前半のキャストは順調に決まっていった。

だが…問題は後半だった。

黒板に希望者の数を表す『正』の字を書いていた先生が叫んだ。
「あー! 照明係希望が多すぎる!! 誰でも良いから後半の主役とヒロインやりたい奴は居ないのか!?」

だが、それに答えるものは誰一人として居なかった。

その時、
「だってなぁ〜。後半は一人で歌、歌わなきゃいけないんだもんなぁ…。」
誰かがそう言った。

それを聞いて、皆が口々に言い出した。
「そうそう、そこまで覚えきれねえよ。」
「恥ずかしいよ…。」
「誰かやれよ。でも俺は絶対嫌だからな。」
「歌が無ければねぇ…。」

教室中で「お前がやれ。」「嫌だ。」と言う声でざわめき始める。

そんな中、
「じゃあ、主人公は俺がやります。」
と、手を上げた奴がいた。

『!!!!』
それを聞いた生徒全員はその声がした方を一斉に見た。

そのクラス中の視線を一身に浴びた『そいつ。』北斗はたじろいで、
「な…、なんだよ…?」
と、周りを見た。

「じゃあ、後半の主人公は榊君で決まりね。」
そう言うと先生は、黒板に書かれた主人公の名前の下に北斗の名前を書き、赤いチョークでマルを付けた。
そして少し考えると、
「照明係希望の奴、2次希望でのやりたい奴に移動するなら今のうちだぞ。じゃないとジャンケンになって、負けたらやりたく無いのをやる事になるぞ。」
と、叫んだ。

それを聞いた何人かは、
「じゃあ…、違うのにしよう…。」
と言った具合に、脇役や、ダンサー、ナレーターと決めていった。

そして…。
「大分減ったけど、まだ定員オーバーだな…。」
黒板の『正』の字を見て先生はそう呟いた。
そして溜め息をついて言った。
「仕方ない! お前等ジャンケンしろ!!」

その言葉に、照明係希望の生徒達の表情が変わる。
その中に未来と昴の姿もあった。

「絶対負けるもんか。」
マジな顔をして未来は呟いた。

「…………。」
昴は不安げな顔をして、ただ押し黙っていた。

他の生徒達もそれぞれ、両手を組んでそれを覗き込むジャンケンのおまじないをしたり、
胸の前で両手を組んで祈っていたりしていた。

そして未来達は円陣を組むように向かい合って叫んだ。
『ジャーン、ケーン、ポンッッ!!』

そして……。

第七話序盤へ。 第八話中盤へ。


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